南極立海

2019年01月26日

わたしの人生で多分一番反応をもらった本なので思い出深い

おはなしをかく前にいつでも動機があるんですけど、ときによってふわっとしたりばしっとしたりしています。南極はすっごくばしっとしてました。

「切原赤也が走って追っているもの」

・なぜ走っているのか。→彼だけが2年生だから。

立海の中で、彼だけが来年「全国大会経験者」になる。この事実についてはテニスにハマった当初からいろいろなひとと意見を交わしてきました。話し合いはたいてい悲観的な結論を迎えており、私もそういう傾向を持っていたと思います。

けれど、絶対そうであってはいけない。切原赤也はひとりきりになったからと言って、絶対に諦めるようなプレイヤーではない。私はそう信じています。

同時期、赤柳を描く機会が何度かあって、「江ノ電に乗り込んだ柳蓮二を走って追って、次の駅で追いつく切原赤也」という像をかこうと思いながらうまくかけず、ずっと宙ぶらりんになってもいました。

その2点が急激に重なって、立体的になりはじめた。

それが、南極点到達を目指した男たちのお話でした。

なぜ南極の記事を検索していたのかはもう覚えていませんが、多分海洋学をやってたときに、南極大陸だけちがう海流があって…というのをうっすら気にしていたのでしょう。

ふと読んだその記事は、来年が南極点到達60周年であること、南極点到達にはアムンセン隊とスコット隊の2つが同時期に挑んでいたことを教えてくれました。

ノルウェー出身のアムンセン隊が驚異的な速さで南極点到達を果たした一方で、別ルート(しかもこっちのほうが盤石だと言われていたルート)を通ってイギリスの威信をかけた南極点到達を志すスコット隊は大きく出遅れ、南極点に到達したときにはすでにアムンセンに越されていることが明白で、帰路遭難し、死亡したこと。

ここまでの史実を知り、私の中でずっと苦しんでいたもう一つの論点に光がさしました。

「立海大附属はなぜ青学に負けたのか」

本当に悔しかったんです。立海を応援するようになって、関東大会決勝、全国大会決勝、なんで立海は負けなければならなかったのか、と考えていました。すごく悔しくて、恨めしくて、青学をずっと嫌いでした。なんだよDear Princeって!って思ってました(笑うところですよ)。

きっとスコットもそう思ったと思いました。自分たちは正道を歩き、威信を背負い、「人類初の南極点到達」に必ず成功しなければならなかった。なぜ、ぽっと出のアムンセンなんかに越されなきゃいけないんだ、って。彼は紳士ですけれどもやはり人間だから、一度は、きっと、思ったと思うんです。

その彼の心と、私のやるせなさと、立海が青学に負けることの意味が、「アムンセンとスコットの南極到達競争」の結末で解決されました。

曰く、アムンセンの南極点到達はあまりにはやく、また未知のルートを使っていたため、当初はガセだと言われていたんだそうです。けれどあとから南極点に到達したスコットが、南極点に向かうアムンセンのソリの滑走跡を目撃していて、それを記録していたのです。それによってアムンセンの南極点到達は証拠立てられ、彼は英雄になった。けれども英雄は独りで英雄になったわけではない。

いま南極点に建っている基地は南極点初到達の英雄の名を冠しています。

アムンセン・スコット基地といいます。

それを知って、私は確信しました。相手がいなければ、テニスはできない。相手がいなければ、勝ちも負けもない、ボールが返ってこない。立海を負けさせたのはたしかに青学だけれど、青学の相手であった立海は、たったふたりきり、たった2校きりの決勝戦という大切な空間を共有した戦友であったのだと。

恨みつらみは消え去り、誰も入ることのできない決勝大会の2校の縁を清くみつめるばかりになりました。


そうして、南極立海の地盤が出来上がったのです。


その後も本当に難産で………本当は南極到達記念日の1/29に「全国大会」で出す予定だったんですけれど、ほんっっっっとうにおわらなくて、泣く泣く5月に持ち越しました。おかげでたくさん描き足せて、わかりやすい一冊になったと思っています。


これは冊子内のコメントにも入れたのですが、赤也と3年生との間の年の差は永遠に埋まらないんですよね。だったら60年でも同じなんで、赤也は60年後の日本人です。

時を超えた人はもうひとりいます。これ、最近気づいてコメントをくださった方がいらして嬉しかった。乾貞治です。

乾貞治は、60年前南極から引き上げるときにオーロラを浴びました。不二は消え、みんな「自然現象」でちりぢりになっていく惨状の仲で、彼だけが柳蓮二を覚えていたので消えずに、でも年老いずに60年間南極を見続ける羽目になりました。私高橋留美子作品の「人魚シリーズ」が大好きなんですけれど、人魚の肉を食べて不老不死になった人たちはみんな、衰えぬ容姿をどう社会に溶け込ませるか腐心しているんです。だから自然と、乾貞治も、彼自身の名声と容姿をごまかすために「辰巳○彦」と名前を変えて生きていました。

(いただいたお題箱コメより:たつみさんのお名前は いぬいさだはると関連しているのでしょうか?干支で 辰巳と戌亥は真逆に位置しているので...)

あ、不二周助が消えたのは彼が立海に転校する可能性があったというアレです。

そして60年経ってやっと南極に降り立って、あの日消えた不二と、閉じ込められたままの蓮二を見つけるためにオーロラに身を任せるのです。

私、あの、オーロラに貞治が消えていくシーン(走って基地を出る貞治、電話が来て、辰巳はもうしんでるって言われて、足跡だけを残して消えちゃう)から、その足跡をなぞるように赤也が歩いてくるシーンのつなぎがいちばん会心の出来だなって思ってるんで、注目して下さい!!!!!!!!!!!!!

足跡は轍です。「負け」を、スコットが確信したアムンセンたちの滑走痕。貞治の足跡を赤也がなぞって再度踏むのは全国大会決勝戦の暗喩。

ああ、あと、車でうつらうつらしてる赤也に話しかけてるのが仁王くんっていうところも、最初なかったページなので入れてよかった。入道雲が沸き立っているのに雨が降らない、のは、ずっと夏が夏のままであるという意味をこめていました。60年経とうがなんだろうが、当事者にとってあの夏はあの夏のままだと思います。



***ここから後半


柳蓮二が、立海大附属の負ける可能性に気づいていないことなどあったでしょうか?

柳蓮二とオーロラについて

個人の心情やチームとしての目標は一度置いて、彼のもとにもたらされる様々な情報は、確実に、立海大附属の全国制覇を予見していたでしょうか?

私は、「常勝立海」のスローガンを一度脇において考えたとき、それはないと思っています。柳蓮二は一定の拠り所をモトに、立海の敗北もまた見えていた。でもテニスの王子様は越前リョーマくんの物語なので、そこにフォーカスが当たることはありません。だからこれから先のことは私の夢見がちな妄想です。

現メンバーで全国制覇ができない可能性を直視した柳蓮二は、「常勝」の潮流から身をひこうとするのではないか。表立ってではなく、ひそかに。誰にもわからないように。それは彼が乾貞治に負けているので、刻一刻と進む潮流からひとときだけでも身を離した経験による冷徹な目です。でも自分が負ける訳にはいかない。チームを負けさせるわけにもいかない。でもこのままじゃ負けるかもしれない。

私は、そんなとき彼がなにか一つ、信条を折ると思いました。

そうして、いつか必ず勝利をなし得ることが、今回ありうるかもしれない最悪の事態を苦しみのままにしないために、絶対に必要だと信じたのだと思いました。

切原赤也にノートを残すことです。

私の知っている柳蓮二は、乾のようなノートを残すひとではありません。それは多分だけれど、記録したら残ってしまうから。そういう残すという行為を彼は自分から遠ざけているように思います。(博士と教授の過去を通り抜けてきているので)

でもその彼が残した。未来に起こりうる切原のテニスをです。

何度も繰り返しているかもしれないけれど、柳蓮二が信じた切原赤也のテニスは、「データテニス」が持つ「データは過去でしかない」という欠点を

「不確実なことであっても信じること」「追うものがいると信じて残すこと」

で補います。切原赤也が追ってくれたら、柳蓮二のデータテニスは完成する。

かくして、立海は万一負けたとしても、それを遺恨の残る形にせずにすみます。

最初に真田が言っている通り、執拗き人魂は赤く燃えます。オーロラは人魂です。負けたくない、絶対に勝ってやるという執念の炎です。そして、試合が終わったときに輝く夕陽でもあります。いきていてもしんでいても、負けても勝っても、ひとしく人魂は赤く燃えるので、オーロラは生きている証です。だから何度だってボールを追うし、負けたって挑むし、ラリーは続いて、ミュは再演して、テニプリは続いて、ずっと楽しいテニスがつづけられる。そう信じて、最後のシーンを描いていきました。



ミュは1stをDVDで(食い入りました)、2ndは比嘉から生で、見るようになった身です。生きているってすごく素敵です、目の前で息をしている役者さんが、命をかけて王子様たちのことを呼び出している様子が頭を揺さぶり胸を焦がします。私も多くのファンと同じようにたくさんの感動をもらい、そのおかげで立海の死は死ではなかったことをよく考えられるようになりました。立海が負けたことを悲観的に見る観念は去り、皆が追いつづけるテニスを、テニプリを、いいなとじんわり思うばかりです。


(質問や感想がもしも寄せられたら、これ以降に追記します) 2019/03/14

▶お題箱に日吉の質問をくださった方へ。 (2019/03/20 Twitterより)

設定、あります! 日吉がいるのは、彼もまた星を追うひとであり、切原と肩を並べられる程の希求を抱えているからです。 私は彼のオカルト好きと跡部景吾への「下剋上」に関連が在ると思っております。それは跡部景吾が現前する超常現象だから。 

南極の世界線にまだ跡部はいないんですが、UFOは彼をテニスの王子様の世界に導く光です。南極で異変が起こった瞬間にUFOが見えた(日吉がいるのは南アフリカの設定でした)、その時彼もまた跡部景吾の存在を見て取って、のちのちUFOに連れ去られてここから消えます! 

文字にして説明ができないのでまんがにした......という経緯があるせいで、説明すると何のこっちゃってかんじですけど、そういうことなんです...(??)日吉は外資系の大きい投資を抱える会社にいて、ここでは南アフリカの政府と提携できるかどうかの瀬戸際の大事な交渉に若くして出向いている有能さん。 

日吉と切原が酒を飲んで、昔一緒にテニスをしていたことを語り合うというシチュが命に近く好きだったので、このページはかなりはじめからありました。よくない??違う学校なのに...! 逆にじつは乾が出てくることになったのが最初の締切の2週間前とかで、間に合わないので締切と刊行を伸ばしました。 

現実にも、南極に行ける人ってかなり限られているので、お話の中でも自分で納得できるまで設定を練りました。日吉のこと、聞いてくれてありがとうございます。きりひよもあとひあとも、CPというよりふたりの関係が好きです〜きりひよ二人とも高収入なのに小さめの料理屋に入ってるところがこだわりです 





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